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『すべて真夜中の恋人たち』
シンプルに個性が光る映画
この映画の感想は一言で言い表せない。特に映画を見終わった直後は、人それぞれで感じることが違う。岨手由貴子監督によると、この映画は社会現象というより、一人の女性の心情を描いているという。
2020年のコロナの影響で世界中にリモートワークが登場した。自宅から仕事ができて人と会わなくても良い、上司と一緒に夜に飲むつきあいもしなくて良いというように、「人と関わらないことに正当性が出ました」と監督は語る。当然、自己的に一日中誰とも話さない時間が続くと、人間関係に影響が出てくる。
あらすじ:
主人公の入江冬子(岸井ゆきの)はいつもぼんやりとしていて、何事にも無趣味・無関心。他者との交流や恋愛もせず、孤立を保ちながら特に主張もせずに生きている。時にはその異質さが周りで苦しんでいる人たちをイライラさせて、イジメの対象にもなりかねない。そんなある日優しい年配の男性、三束(浅野忠信)に出会う。彼は黙って寄り添ってくれる存在。意味のない会話を聞き、語り、ただ静かな時間を共有する二人。だが…。
「私はこれはハッピーエンドだと思っています」と岨手監督は続ける。「二人の恋物語ではなく、冬子が一人の私として初めての感情を経験する。この恋の行方がどうであり自分自身が変わった。三束と出会う前と違う自分になり、これから別の誰かと出会うことができるからです」。
そしてその冬子の気持ちを語るナレーターを担当したのは俳優の松坂桃李。女性でなく男性の声が意外に感じるが、監督は脚本を書いている時からそう決めていたそうだ。口下手な冬子では最初からスムーズに自分を語れないし、男性の声のナレーションだと説得力がある。
冬子にとってこれが一世一代の特別な恋でも、男性が淡々と語るとありふれたものに聞こえる効果がある。監督は「そのぐらいの恋の1つや2つは多くの人が経験して当然、というような距離感を表現したかったのです」と話した。
2008 年に初の長編デビュー作の映画『マイムマイム』で第27回バンクーバー国際映画祭「ドラゴン&タイガー(Dragons & Tigers)」賞にノミネートされた監督。バンクーバーではボランティアと日本から来た他の監督たちと一緒に観光ができて、とても楽しかったそうだ。その中で映像実験で参加していた一人の男性監督と知り合い、その人が今のご主人だという。そんな素敵な出会いがバンクーバーで生まれた。
岨手監督の映画『すべて真夜中の恋人たち』は、小説家・川上未映子による長編小説の初映像化作品。今年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でワールドプレミアし、まだこれからも南米を含む世界中の映画祭から招待を受けている。監督の次作にも期待したい。

岨手由貴子監督
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