根岸吉太郎監督
ロッテルダム国際映画祭『ゆきてかへらぬ』

©2025 Maple Press Canada
根岸吉太郎監督は、『探偵物語』『雪に願うこと』『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』で知られる日本のベテラン映画監督。16年ぶりとなった最新作『ゆきてかへらぬ』(英題:Yasuko, Songs of Days Past)で、ロッテルダム国際映画祭のIFFR 2025 Big Screen Competitionに招待された。
芸術と三角関係
映画の焦点は日本の20世紀を代表する詩人の一人、中原中也。1937年にわずか30歳で結核で亡くなった彼だが、その後何十年も若い読者に共感され愛されてきた。映画はそんな天才詩人のあまり語られなかった青春時代を描く。
舞台は大正から昭和にかけての時代。まだ17歳の学生だった後の詩人、中原中也(木戸大聖)は、駆け出しの年上女優、20歳の長谷川泰子(広瀬すず)に出逢う。二人はお互いに惹かれあって同棲を始めるが、後の文芸評論家で中也の才能を誰よりも認める小林秀雄(岡田将生)に出逢う。泰子は小林に惹かれ、中也は泰子との関係を保とうとする一方、小林は両方に惹かれていく。脚本は田中陽造で、才能あふれる3人のアーティストたちの青春、恋愛と複雑な三角関係が記されている。

©2025 IFFR
1930年代の日本は民主主義でロマンチックな時代。監督によるとまだ戦争が起こる前の面白かった良き時代。だがまだ日本各地にお城が残っているサムライ映画と違って、大正時代の撮影場所を探すのが難しい。黒い瓦の宮川町では、古くて失われた美しいものをもう一度蘇らせて、次の時代に伝えたいと思ったそうだ。また若者に「お説教をするつもりはないけれど」と丁寧に前置きして、「人と人の出会いやコミュニケーションは現代のスマホや機材だけでなく、実際に目と目を合わせて肌に触れる。そんな風に生きた人たちがいたと感じてほしい」と語った。
根岸監督はロッテルダム国際映画祭の観客に、「中原中也は自分を制御できない、強さ、弱さ、そしてどこかに哀しみを抱えている人物。泰子と出会って別れた思い出がエネルギーの元となり、その後素晴らしい詩を作った」と説明した。そして最後に「彼の詩には音楽性が感じとれ、それがこの映画の色彩にもなった」と締めくくった。
大物監督の若者への優しいメッセージが感じ取れるような『ゆきてかへらぬ』。バンクーバーでの公開が今から楽しみだ。

